私のクリニックではオンライン診療を完全自由診療の形で提供しているので、
保険診療の中でのオンライン診療がどの程度普及しているのかについてはあまり把握できていません。
私のクリニックを受診される患者さんは2019年10月の開設当初に比べると、微増という感じでまだまだこれから頑張って知ってもらわないといけないなと感じる一方で、
ひょっとしたら自分の知らないところで、保険診療でのオンライン診療は大流行りしているのかもしれないという気持ちもどこかで持ちながら過ごしています。
それでも私は保険診療でオンライン診療を行おうという気持ちは持っておりません。
理由は保険診療におけるオンライン診療のルールが厳しすぎるとか、対面診療に比べて収益が得られにくいなどの仕組みの問題もあるのですが、
もう一つの大きな理由は保険診療を行うというのは「国民みんなのお金を使うこと」だという意識があるからです。
オンライン診療はまだ発展途上の医療分野です。これによって私自身は価値を提供できることに私は確信を持っていますが、
少なくともそれはまだ社会の共通認識にはなっていません。そのような状況で国民みんなのお金を使ってオンライン診療を行うのは時期尚早と言えます。
勿論、政府が言うように「対面診療の補助的手段」として利用するのであれば、今の状況でも保険でオンライン診療を行うことは筋が通っていると思います。
ただ私が証明しようとしているのは、オンライン診療の「対面診療の補助的手段」としての有効性ではなく、
「オンライン診療が持つ対面診療とは違ったニーズを満たす医療価値」というところにあるので、
これを証明しようというのであれば、自由診療で保険診療の厳しいルールの制限を受けない条件の中でオンライン診療を行う必要があります。
だからたとえメインストリームから離れたとしても、私は自由診療でオンライン診療の可能性を追求し続けたいと思っています。
そんな中、私の下に次のようなニュースが流れ込んできました。
初診から保険適用が認められている「オンライン診療」サービス、認知率は7割以上だが利用率はわずか2%
2021.02.25
保険診療においてもオンライン診療の利用者は2%程度しかいないという実情を示した調査結果です。
コロナ禍の時限措置の影響でオンライン診療が初診からでもOKで、疾患制限も特になしという状況になってそろそろ1年が経とうという時期になっているにも関わらずこの利用率の低さです。
「認知率が7割以上あるのに」という点がまた皮肉です。つまり多くの人にとってオンライン診療は「知っているけれど利用しようとまでは思わない存在」だということです。
年齢別で見ると、10〜20代の若い世代の方が30〜50代の世代に比べて若干オンライン診療を利用している率が高い傾向もありますが、
それも五十歩百歩といった感じで、全体としては全世代においてほとんどの人が利用していないという調査結果となっています。
そしてなぜオンライン診療を利用しないかについての個別の意見としては次のようなものが例として挙げられていました。
・どこの病院でどのように受診できるかの情報が入ってこないから(女性/33歳)
・実際に手を当てて診てもらう安心感には代えられない(女性/54歳)
・スマホやパソコン操作についていけない人がいるから。今の20代が年をとった頃には、当たり前の世の中になっているかも(男性/49歳)
・症状が言葉だけで伝えられるか不安だから。触診など、対面でしかわからない部分もあるから(女性/33歳)
・医師に直接会って診てもらうほうが安心できるから(男性/30歳)
・オンラインで人と会話するのは直接話すより体力・集中力が必要。体調が悪いときには不向きだと思う(男性/26歳)
・痛みやつらさなどがうまく伝わるかわからないし、レントゲンや血液検査などを受けに行くのなら二度手間では(女性/52歳)
これが世間の「オンライン診療」への本音なのだろうなとその現実をしっかりと受け止める必要があります。
総じて対面診療における「安心」を重視している人が多い印象です。「〜してもらう」という表現が多いことにも気がつきます。
あるいはオンライン診療へのアプローチや、実際の診療での情報伝達の非効率性などへの「不安」を訴える声もありますね。
要はオンライン診療では従来医療における安心は得られないだろうという感想を多くの人が持っているということです。
これに関してはオンライン診療はそもそも「診てもらう」ためのツールというよりは「相談する」ためのツールだという認識が広まる必要があると思っています。
「診てもらう」というスタンスで利用する人のニーズをオンライン診療は満たすことはできないでしょう。どうしても対面診療に比べると、オンライン診療で客観的に得られる情報は少ないからです。
ですが「相談する」というスタンスで利用される場合は、オンライン診療が対面診療にはない価値を提供する可能性が出てきます。
「診てもらう」というのは、医療者側が一方的に患者側の情報を収集する構図であるのに対して、
「相談する」というのは医療者側と患者側が対等な立場で、対話を通じて互いの気づきや情報をシェアし合う構図となっています。
「診てもらう」という受動的な姿勢ではなく、「対話の中で何かを得よう」という能動的姿勢があれば、異なる立場で対等に情報交換し合えるオンライン診療の方が何か有益な気づきが得られる可能性が高まるのではないでしょうか。
オンライン診療への認識がそのようなものへと変わっていくためには、まだまだ従来習慣の壁、常識の壁というものが立ちはだかることでしょう。
その壁を崩すためには有無を言わさずオンライン診療が圧倒的に有効的であったことを示す実績を積み重ねることしかないと思っています。
いつの日が壁が崩れる瞬間を目の当たりにできることを願って、
これからも息長く私はオンライン診療の場を提供し続けていきたいと思います。