日本老年医学会の高齢者医療委員会という部門から高齢者を診察する医師に向けての「高齢者のオンライン診療に関する提言」―通常診療を補完する医療としてのオンライン診療―と題した指針が発表されました。
全体としてオンライン診療の活用範囲を広げようという意図の感じられる前向きな内容になっていると感じます。
ただ【はじめに】の部分で「しかし現状では、オンライン診療はあくまでも通常の対面診療を補完するための手段でしかないことに留意が必要である」と記載されている点は、私と意見の違うところです。
「対面診療とオンライン診療はお互いに関わり合いながらも、それぞれが別の医療ニーズを満たす異なる診療形態である」と理解すべきだと考えています。対面診療にできてオンライン診療にできないことは当然ありますが、それを対面診療を前提に考えて「オンライン診療のデメリット」という認識に固執する必要はないと私は考えています。
お互いにできることには違いがあるのです。例えば「遠隔地に住む患者を診療できない」ということは「対面診療のデメリット」だと思いますが、今までにそれが「対面診療のデメリット」だと認識されたことがありますでしょうか。
対面診療が当たり前の世界でずっと生きてきたから、新参者のオンライン診療が異質に見えて、そのデメリットばかりが目についてしまうのだと思います。でも本当はメリット、デメリットはお互い様なんです。どんな人間にも長所と短所があるように。
だったら、長所と短所をそれぞれ持っている人間どうしが手と手を取り合って、互いの欠点を補い合いながら、協力して見事な社会を作っていくのと同じ発想で、対面診療とオンライン診療も協力関係となって医療全体を発展させていく方が良いのではないでしょうか。そこには多様性を取り込んで劇的に発展していく企業と同じ構造があるように私には思えます。
さて、そうは言うものの、全体的には以前に比べるとオンライン診療に対して前向きな発言も見られる内容です。この中にオンライン診療のメリットとデメリットがまとめられているので、とりあえずざっと眺めて見ましょう。
(以下、「高齢者のオンライン診療に関する提言」より部分引用)
【オンライン診療のメリット】
1.ある程度の重症化判定およびトリアージが可能である
2.不必要な往診を減らすことができる
3.緊急入院を減らせる可能性がある
4.感染リスクを減らせる
5.対面よりも緊張感がなく、安心感が得られやすい場合がある
6.ハイブリッド診療が可能となる(※例:地域の開業医が大学の専門医と連携)
7.多職種連携における利点がある
8.新しいオンライン高齢者総合機能評価(CGA)が可能となる(※←ここなぜか提言の中で強調されている)
9.社会的に新しいテクノロジーの導入のインセンティブになる
【オンライン診療のデメリット】
1.治療に確定診断が必要な疾患には向かない
2.疾患背景や健康情報が確認できるものに行うことが望ましい
3.高齢者では情報通信機器の使用が難しい場合が多々ある
全体としてメリットが多めに評価されてきていて、オンライン診療不遇の時代からオンライン診療に注目してきた身とは、隔世の感とまでは言いませんが、ゆっくりとしかし着実にオンライン診療が理解されつつある流れが感じられて喜びを感じます。
ただやっぱり思うのは、オンライン診療のデメリットとして挙げられている部分は「対面診療が本来的だ」というのが前提の立場に立った時のデメリットです。
もっと言うと、オンライン診療のメリットの8番目「新しいオンライン高齢者総合機能評価(CGA)が可能となる」という部分が提言の中で強調されている点もそうだと思います。
これらは「正しい知識を持った医療者が誤った行動をとってしまっている患者を正しい方向へと導く」という管理の発想だと私には感じられます。
「オープンダイアローグ」という「対話」的な活動を通じて私が思うのは「人を管理しようとしてもろくなことがない」ということです。現実には管理できないことの方がほとんどで、むしろ管理しようとして管理できない現実に直面して、管理する方もされる方もともに悩みの谷に突き落とされてしまう構造さえあると思っています。
私はオンライン診療を3つのデメリットがある診療形態だと思っていません。オンライン診療にできないことをデメリットだとわざわざ認識する必要はないと思っています。オンライン診療にできることを一生懸命行い、できないことに対しては助けを求めるというスタンスで関わればいいと思っています。そして対面診療もそうあるべきだと思っています。「遠隔地の患者を診ることができない」などの特徴をことさら「対面診療のデメリット」だと受け止める必要はないと思うのです。
そういう意味で長所に注目して、管理しない視点からみるオンライン診療の私の受け止め方はこんな感じです。
「病名のわからない状況下で、病名がわからなくても使える治療手段を駆使し、安心できる環境下で互い(医者・患者)の持つ情報を対等な立場で交換し合いながら、どうすればより良い方向に向かっていくべきかを結論ありきではなく、一緒にアイデアを出し合う場」
それが私にとってのオンライン診療です。
これからもオンライン診療がより良い方向に変わっていくことを切に願います。
たがしゅう