オンライン診療からの卒業へ

幸か不幸か、オンライン診療への風向きはコロナ前後で大きく変わりました。

それまで異端視されていたオンラインビデオ通話による診療形式が、一般的であるかどうかは別として少なくとも一つの診療形式として認められるに至ったように思います。

私はコロナ前からオンライン診療の持つ重要性に注目し続けている立場なので、コロナの感染対策としてオンライン診療が認知されるというのは正直複雑な想いもあるのですが、

何がきっかけにせよ、オンライン診療の裾野が広まっていくことはよいことだと思います。

同時に自分の中ではオンライン診療がすべてではなく、オンライン診療は診療全体のニーズの一部を満たす手段でしかないという位置づけがより明確になってきています。

特に私が目指す主体的医療を展開していくのにオンライン診療が満たせるニーズはごく一部でしかないということに気づいたのは、この一年における大きな収穫であったように思います。

別の言い方をすれば、私が求める医療のニーズを満たすには、何もオンライン診療の形にこだわる必要はないということです。

私がなぜオンライン診療に注目したかと言いますと、一言で言えば「医療との距離感を適正化し、患者の主体性を促進しやすくなるかもしれない」と考えたからです。

しかし、実際にオンライン診療を2-3年経験してみて感じたのは、そう簡単に医療の構造は変わらないということ、言い換えれば「医者と患者の上下関係を感じられる場面では患者の主体性は促されない」ということです。

 

これは特に今年6月から保険診療を始めてそう思いました。私自身がいくら患者さんが病気の理屈を自身が理解し、生活や思考を変えて薬を減らし病気を卒業していくプロセスを推奨していても、

患者さん自身にその意識が生まれない設定では、そのような行動にはつながりえない、依然として患者さんは医師を頼り、薬の継続を希望し続けるということです。

一方でそういう医療を求めている患者さんが圧倒的多数存在するという事実もよく認識しています。ただその医療は私以外の多くの医師を始めとした医療者の皆様が私よりも十分な体制で整えていらっしゃるので、とりわけ私がその領域に参戦する必要はないと思っています。

そうではなくて、やはり私は患者さんを病気から卒業させる医療に尽力していきたい、もっと患者さんの持つ力が最大限に活かされる手助けをしたい、そういう意味では私は今のオンライン診療の形から卒業せねばならないと感じています。

保険診療はあくまでもこの形を必要な人のために可能な限り残し続けたいと思いますが、私は患者さんの主体性を支える別の形式を求めてオンライン診療の形を変えていこうと思っています。

その意味で私が今注目しているのは「対話」の持つ可能性です。私はまず白衣を脱ぎ、患者さんと同じ立場で語り合える場を作り、患者さんに上から目線で解決策を提示するのではなく、一緒に困り、悩み、そして何かが変わるのを待つ、耐える、そして信じる

そのための場を作っていく必要性を強く感じています。

そのためには医療という場自体を離れ、もっと開かれた場に出向くことが重要なのかもしれないと感じています。

これからオンライン診療はコロナを経て、診療報酬が上がり、多くの人が利用していく時代に突入していくことでしょう。

そうなった時、私はそのようなオンライン診療の場から、むしろ離れていく必要があると感じています。

 

 

たがしゅう