オンライン診療での漢方選択:「全身倦怠感」編

慢性的な「疲れ」を訴える患者さんに対して、当座の対症療法としてオンライン診療による漢方薬治療が助けになれる可能性があります。

「疲れ」の原因はいろいろありますが、漢方では「気」というものに異常があると考えます。

「やる気」「元気」「弱気」「雰囲気」など様々な熟語に登場する、「気」という言葉、つかみどころのない概念的なものと思われる方も多いかもしれませんが、

西洋医学的な解釈で言えば「気」とは、「エネルギー産生効率」のことです。

人間の身体は主として糖質か脂質かをエネルギー源として、身体の中で代謝されてATPという物質を先生する過程で様々な身体の機能を動かすエネルギーが生み出されると言われているのですが、

このエネルギーの産生が潤滑に行われている状態を、東洋医学的には「気」がうまく流れていると表現していると思えばよいと思います。

そして東洋医学的には疲れの原因は、この気の流れが滞っている「気滞(きたい)」という状態か、

気が足りない、すなわちエネルギー産生能力が低下しているという「気虚(ききょ)」という状態のいずれか、もしくは両方ともが原因と考えられています。

気が滞るというのが、西洋医学的にはイメージしにくいかもしれませんが、必要物質は充足されているけれど、何らかの原因でエネルギーの産生効率が低下している状態だと考えてもらえればと思います。

ちなみに私見ですが、そういう状況には、自律神経障害に伴う微小循環障害が関わっている事が多い印象を持っています。

さて、漢方では気滞に用いる薬の代表格として「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」という漢方薬が、気虚に用いる薬の代表格として「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」という漢方薬がそれぞれあります。

それをオンライン診療の問診でどう見分けるかということですが、

何ヶ月以上も続いている休んでも解決しない「疲れ」があるという患者さんで、

同一作業を繰り返している状況があれば「半夏厚朴湯」、手術や感染症などその前に身体を消耗させる何らかの要因があって以降疲れている人に対しては「補中益気湯」を用いるという選択の仕方がある程度妥当性があると思います。

なぜならば同一作業をくり返し続けるという状況は多くの場合非常にストレスフルなので、自律神経への負担がかかりやすいからです。

例えばいつも同じようなパソコン作業を繰り返して、食べるものはきちんと食べているけど、なんだか疲れが取れないというタイプの人は「半夏厚朴湯」を使ってみる価値があると思います。

また手術や感染症はエネルギーの需要が一気に高まるイベントなので、一時的なエネルギー枯渇状態となってもしかるべき状況です。

そうした時には気虚と考えて、「補中益気湯」を使ってみると効く可能性が高まります。

「半夏厚朴湯」「補中益気湯」のそれぞれがどんなメカニズムでエネルギーの効率を改善しているのかについてはブラックボックスですが、

ともあれ当座の状態をやりくりする手段としてであれば、オンライン診療で使える一手だと思います。

勿論、根本治療として糖質制限+ストレスマネジメント指導をしながら治癒を目指すことになります。

ちなみに気滞と気虚両方ありそうな人へは「半夏厚朴湯」+「補中益気湯」の二種類を使うやり方でもよいのですが、

少し気虚への効果が弱めではありますが、気滞と気虚の両方をカバーする漢方薬として「茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)」という漢方薬もあります。

少しでも皆様の参考になれば幸いです。

たがしゅう