私はもともと在宅医療に興味を持つ医師でした。
今から10年以上前の研修医時代に始めて在宅医療の現場を経験した際に、
病院の中での常識がことごとく覆されていく感覚をおぼえました。
余命3ヶ月だと宣告されていたのに、実際には2年以上、しかも最期まで笑顔でおられたがん患者さんのこと、
白衣を着ずに診療し、訪問診療の度に患者さんやその御家族に招き入れられ、談笑し時にはお茶菓子まで振舞ってもらえる人間関係、
訪問看護師さんが器の大きい医師の責任の下で現場での問題を自由な発想で対処していく臨機応変さに優秀さ、
全て病院での医療の質がワンランクアップしているように当時の私には思えたのです。
今にして思えば、それは患者さんの希望になるべく近づけることによって、
患者さんのストレスをマネジメントすることができていること、
そしてスタッフにとっても患者さんが好転する変化を受けてやりがいを見出しやすくすることによるのだろうと感じます。
色々なタイプの患者さんがおられますが、例えば医療者に一方的に世話されるという病院での関係性よりも、
世話してもらった代わりに何かお返しができるという在宅での関係性の方が、
患者さんの精神衛生的によいというタイプの人は多いように見受けられます。
だから多くの人にとって、同じ医療を受けるのでも、文字通りホームでいることの方が居心地がよいのではないかと思うのです。
もちろん、自宅に立ち入られるのが嫌だという患者さんもいますし、
病院というものに絶対的な安心感を感じている人にとっては、在宅医療は必ずしもよいと感じられないかもしれませんが、
在宅でも多くの場合病院とほぼ同質の医療を受けることができるという知識を知れば考えも変わってくるという方もおられるかもしれません。
さて、そんな在宅医療は医師が患者さんのもとに出向いてこその医療です。
出向いて患者さんの生活を知り、いつもの場所での患者さんのリアルに近い状態を知り、
患者さんの本当の悩みや問題点を見つけ、その解決策を導き出す医療です。
その在宅医療に興味を持つ私がいまやオンライン診療に興味を持っています。
人によっては在宅医療とオンライン診療は真逆の医療だと感じられる方もおられるかもしれません。
実は最初は私もそう思っていました。
なんかこう、温かみの感じられない医療だと。
しかし、在宅医療もオンライン診療も「なるべく患者さんの希望を叶えようとする医療」という意味では共通しているのです。
今までであれば、患者が受けたい医療を希望しても、それを受け入れてくれる医師が周りにいない、ですとか、
あるいは今までであれば、病院を受診しようにも仕事や子育ての関係で受診する時間が確保できない、などといった状況に対して、
その諦めていた希望を新たに叶える可能性を提供しうるのがオンライン診療だと思うのです。
確かに直接触れることができないので、温かみは感じられにくいかもしれませんが、
対話の中で感じられる温かみもあると思いますし、今までつながることができなかった医療とつながることのできる安心感は、温かみの感じにくさというデメリットを凌駕する可能性もあります。
いかに患者さんへ潜在ニーズに気づかせて満足させるかということが重要だと思うのです。
そういう意味で私は在宅医療マインドを持つオンライン診療医でいたいと思います。
たがしゅう