夏井先生のオンライン診療アンケート

いつも読んでいる師匠、夏井睦先生の「新しい創傷治療」のサイトで、

遠隔診療に関するアンケートが行われていたので、その結果を興味深く読んでみました。

患者側への「オンライン診療を利用したいと思うか」という設問と、医者側への「オンライン診療を導入しているか」という二種類のシンプルな設問です。

患者側の答えは「機会があれば利用してみたい」が最多の57.1%、「利用は考えていない」が35.1%

「利用したことがある」と答えた人は10%に満たないという結果でした。

一方の医者側の答えは「導入を考えていない」が最多で65.7%、「今後、導入を考えている」が13.4%

「すでに導入している」と答えた人は16.4%という結果が公開されていました。

夏井先生のサイトに集まる人は、基本的に常識を疑う能力が高く、自分の頭で考える傾向の強い人達が多いですから、

これがそのまま一般的な傾向には当てはまらないだろうということは踏まえつつも、ある程度参考になるアンケート結果と思います。

夏井先生のサイト読者には自分で健康管理できる人が多いので、医療のニーズが低めの集団だということを踏まえても、

オンライン診療を利用したいと考える患者はこのコロナ禍においてさえごく少数派であるし、

医者側もオンライン診療を導入しようとさえ思っていない人が大半だということがよくわかりました。

ただオンライン診療を受けたいと思う患者の割合が少なくても、患者となる人の絶対数は圧倒的に多いですので、

そこに競合しようと考える医者が少数派であれば、今オンライン診療に取り組む医師はブルーオーシャンだと言えるかもしれません。

 

またこのアンケートでは様々なフリーコメントが寄せられており、その内容も大変参考になるのですが、

患者側、医者側ともになぜオンライン診療に参入しないかという具体的な理由がいろいろと述べられています。

本日はそれらの意見の中で多く見られたエッセンスの部分に対して、

勝手ながらオンライン診療推進派医師の私が自分の見解を述べさせて頂こうと思います。

【意見その1

オンライン診療では触って診察も検査もできないのだから、誤診につながるのではないの?

私の考えるオンライン診療では診断するという概念はありません。常に「オンライン診療でわかる情報を広く入手して、考えられる問題を想定し、その問題を解決するための手段を提案する」というプロセスで診療というものを捉えています。それは「診断」を無視するという意味ではありません。他院で「診断」が下されていればそれを参考にはします。私自身がオンライン診療の場で「診断を下す」という行為を行わず、「考えられる可能性を想定し対処行動を起こす」ということです。通常の「対面診療」は「診断」ありきですので、この辺りはなかなか理解してもらいにくいところかもしれません。

しかし一方で「診断名」にとらわれることもしません。病院で検査していても「誤診」することはザラにあります。というよりも「診断」という概念そのものが恣意的な線引きであって実際の世界にはグレーゾーンがごまんとあります。「診断」は参考にするけれど、そこからずれるグレーゾーンも含めて包括的に捉えて対処するのが私の「オンライン診療」のスタイルです。

【意見その2

安定した慢性疾患ならともなく急性疾患の初診患者をオンラインで診断つけて治療を行うなんて無理だ。

そもそも診断をつけるという行為をしないという点においては前述の通りですが、急性疾患をオンライン診療で診るべきではないという点については半分同意できます。私は慢性疾患の問題をゆっくりと紐解いて健康な状態に戻していくことにオンライン診療の価値はあると思っています。今まさに呼吸困難や急な腹痛で苦しんでいる人に対してオンライン診療で対応するなんていうのは無理難題です。そういう状態に対しては救急の対面診療以外の選択はないと思います。

ただ一方でコロナで一躍注目された「感染症」という準緊急病態については、「病院受診そのものによる感染リスク」が周知された現状においてはオンライン診療の出る幕があるようにも思います。診断をつけなくても、細菌感染症かウイルス感染症かの目星は問診だけである程度つけることができたり、症状のタイプからその症状の緩和に適した漢方薬を郵送することもできたり、判断に悩む場合は病院医療へ誘導することもできるわけです。

要するに刻一刻を争う病態でない限り、オンライン診療は一つの選択肢として認められて然るべきではないかと私は思います。

【意見その3

話聞いて薬出すだけならオンライン診療じゃなくてドラッグストアで十分。カウンセリング以外にオンライン診療の価値なしでは?

確かに一理ある意見です。私もオンライン診療の価値はカウンセリングの部分が大きいと考えています。私は自らを「薬も出せるカウンセラー」と認識しており、薬を出すという行為はオンライン診療の中であくまでもオプション的な部分です。ただしドラッグストアで買える薬の質と医者が扱える薬の質が違うということは、特に漢方薬とか西洋医学とは別の治療体系に精通している医師にとっては理解できるところではないかと思います。

それでも薬で患者を治そうなんて私はさらさら思っていなくて、薬はあくまでも緊急避難策、メインはカウンセリングによって患者が主体的に治す方向へ導くことが「オンライン診療」の真髄だと思っています。そのために森田療法や動機づけ面接といった様々なカウンセリング体系を参考にして日々実際の「オンライン診療」の中で技術を磨き続けています。

【意見その4

医療のニーズの大半は高齢者。高齢者にはオンライン診療はそぐわない。

そんなことを言っていたらいつまで経ってもオンライン診療の土台は整わないので、私は先駆者としてオンライン診療の土台を地道に醸成していきます。そして高齢者の方からハードルを超えてオンライン診療を利用したくなる世界を作りあげていきます。

【意見その5

オンライン診療は経営的に儲からないからやらない

従来の保険医療の仕組みに沿っている限りそうでしょうね。だから私は完全自由診療で経営が成立しつつ患者さんの懐にも無理のないオンライン診療のやり方を模索しています。

大事なのは「やらない理由を挙げる」ことではなく、「やるための方法を考える」ことではないでしょうか。

【意見その6

自分で対処できる問題は自分で対処する。自分で対処できない問題は病院へ受診する。だからオンライン診療の出る幕はない。

その考え方の落とし穴は「自分での対処法が誤っていて病院もその誤りを訂正できない」事態に対処できないということです。

オンライン診療は従来の病院医療にはない価値観や治療方法を提示します。自分で対処しようとしてもうまくいかない、さりとて病院に任せていても一向によくならない。そんな時は全く別の視点から自分の問題を分析できるオンライン診療が助けとなれる可能性はあると思います。自分自身の価値観から来る問題には得てして自分自身は気づかないものです。

【意見その7

自覚症状がない病気の発見が遅れるので、オンライン診療では見逃しが増えると思う

そもそも自覚症状のない病気を発見する意味はあるのだろうかと私は思います。健康診断で未然に病気を防ごうというのがその発想が形になったものだと思いますが、その病気の代表格はがんだと思いますが、これは早期発見するべきではないと私は思います。なぜならば自覚症状がないのに早期発見したら今の医療の価値観では間違いなく手術へとつながり、本来受けなくてもよかったかもしれない臓器欠損による弊害が確実にもたらされるからです。健康人でもがん細胞は出たり消えたりしているという話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、がんが出来るということはそのがんの促進システムが過剰となり、抑制システムが不足になっているということです。そこにがんがあろうがなかろうが、自覚症状があろうがなかろうが、やるべきことは促進システムを適度に抑え、抑制システムを大事に使うことです。その具体的な行動が糖質制限であり、ストレスマネジメントなので、そこにがんがあってもなくてもやるべきことは変わりません。がんに手術で対処すべきは自覚症状が現れた時だと思います。その時はシステムがそれほどまでに乱れてしまった事実を受け止める必要があります。

やるべきは「自覚症状のないうちから病気を発見すること」ではなく、「微細な自覚症状にも気付けるよう体調のバロメータを普段から研ぎ澄ましておくこと」であろうと私は考えます。

【意見その8

アプリのインストールやクレジットカード登録が面倒だし不要だと感じる。業者に不要な利益が行きがち。

これは私も薄々感じていた問題点でした。コロナ禍の影響で無料のビデオ通話の文化や電子マネー決済の文化が急速に広まってきたので、この点は速やかに見直していこうと思います。

 

 

多かった意見としてはそんなところでしょうか。

皆様のオンライン診療の理解の一助となれば幸いです。

たがしゅう