前回、オンライン診療での漢方薬の選び方の自分なりの工夫の一例について紹介しましたが、
漢方診療ではもう一つ舌診という特徴的な診察方法があります。
これはその名の通り、舌を診ることにとって全身の病態の一部を推測するという診察方法です。
例えば、舌の出すスピードが先鋭的であればストレスを外に向けて当たる可能性があるですとか、
逆にスピードがなく、ちょろっとしか舌を出してくれない人は怒りを抑圧している可能性がある、ですとか、
あるいは舌の縁に歯の痕がついている場合は、舌がむくんでいて水分調整機構の異常が見受けられる、などの情報が舌をみるだけで一気に得られるわけです。
中でも最も舌の中で重要な所見と私が考えているのが舌下静脈の怒張所見です。
舌下静脈というのは舌の裏側に舌小体という筋の両脇に走行している青紫色の血管です。
普通はうっすらとしか見えないのですが、時にこの血管が隆々とはっきりとした大きな血管として見えることがあります。
これを「舌下静脈の怒張」と言います。
この所見は東洋医学的には「瘀血(おけつ)」があるとみなすのですが、この瘀血というのは言い換えれば微小循環障害のことです。
微小循環障害というのは
心臓→動脈→毛細血管→組織→毛細血管→静脈→心臓
という一連の血液循環の流れの中で、毛細血管の領域の血流が悪いということを意味します。
そして、この微小循環障害は、あるいは微小循環障害に伴う症状は、通常の西洋医学的な検査を行っても異常として指摘されることはほとんどないという難点があります。
そして微小循環障害の原因として一番大きいのがストレスと考えられています。
要するに舌をみて舌下静脈の怒張があればストレスの存在を疑うというわけです。
勿論冷えとか糖質過剰とか瘀血の原因が別にある可能性もあるわけですが、
糖質制限で代謝が改善しているのに舌下静脈怒張の所見をみた場合は私はストレスの存在を疑います。
そしてこうした「瘀血」の所見をみた場合によく効くという漢方薬を選ぶことができるので、
舌下静脈怒張の所見は非常に重要なのです。
この所見はオンライン診療でも映像を通じて私が確認することができるのでよいのですが、
オンライン診療の趣旨は主体性の教育だという観点から考えますと、
私が舌下静脈怒張の所見を判定するのと同時に、患者さん自身にも舌下静脈をみてもらい、この所見がある時にはストレスがかかっているということなんだよ、だから普段から時々見るようにして下さいね、という具合に、
患者さんのセルフケアに役立つ情報を提供していくということもオンライン診療の重要な役目の一つだと考えています。
まさに「魚を釣るのではなく、魚の釣り方を教える」という教育の発想です。
同じ漢方を使うでも、オンライン診療ではこうしたことも意識しながら、診療に当たっていきたいと考えています。
たがしゅう