患者さんに前回と同じ処方を出すことを専門用語で「Do therapy」ということがあります。
手書きのカルテで書く場合は、毎回長い名前の薬と用量、用法、日数を記したりするのは大変なので、
同じ服薬内容であればその繰り返し作業を省略するために、
カルテには「Do」とだけ記載する文化があります。
今や電子カルテが広く普及するようになってきましたから、
その「Do」さえ省略してコピー&ペーストで済んでしまう部分がありますが、
こうした省略の文化があることが、医師のスピード診療を可能にしている側面があるように思います。
ところがその反面、省略文化があることによって、医師には無意識レベルでこんな思考が働きやすくなっている可能性があります。
「特別変わったことがなければDo処方して早く次の患者を」
別に当たり前のことではないかと思われるかもしれませんが、
こうした思考は患者のささいな変化を見落としやすくする温床となっている可能性があります。
というのも、全体としては3〜5分くらいで1人の診療が終わって前の人が診察室から出てくるのを待合室でなんとなく見ている状況の中で、
「次の方どうぞ」と呼ばれて診察室に入った患者さんが、
「変わりないですか?」と医師から聞かれて、変わったことを逐一すべて医師へ話そうと思うのか、ということです。
一部、モンスターペイシェントと呼ばれ、時間構わず自分の症状を数多く医師へ訴えられるタイプの患者さんをのぞいて、
多くの患者さんには「先生忙しそうだから、これくらいのことは言わなくてもいいかな…」という意識が働いて、
よほど相談しようと思っていることがない限り、いつもの薬と同じものを出されて3〜5分で終了ということになってしまっていると思います。
ちなみにあえてモンスターペイシェントという表現をしましたが、私にとってはこういう患者さんはモンスターでもなんでもなく、自分の症状を正直に伝えるという望ましい行動をとっていると思います。
ただそういう人は自分を必要以上に過少評価していて、たとえ良くなっている所があっても、こちらが指摘しない限り「すべて悪い」と評価してしまう傾向の人も多く、その点については是正が必要と思います。
さてこうした流れはオンライン診療ではどうなるかを考えてみます。特に薬を出さない糖質制限+ストレスマネジメント指導中心のオンライン診療について、です。
まず予約制で決まった時間に診察に入るだけなので、待ち時間を意識する必要がありません。
前の人が何分かかったのかということを意識することはありませんし、診察の直前まで全く違う生活活動をしていてもよいわけです。
そして治療方法が糖質制限+ストレスマネジメントとなると、「Do」と記載するわけにはいかなくなります。
逆に言えば「Do」と記載するということは、それは指導の必要性がないということになります。
糖質制限にしても、具体的には何をどうするように指導したのかを逐一記載する必要がありますし、
糖質制限ならば「糖質制限をパンフレットを用いて指導した」などと書けばまだ指導内容の概略を把握することができますが、
ストレスマネジメントに至っては「ストレスマネジメント」とだけ記載していては、後で見て一体何をどう指導したのかが全くわかりません。
また糖質制限と違って相手の背景によって指導内容が千差万別なので、
パンフレットを作るという手を使いにくいです。作るにしても代表的なストレスマネジメント指導パターンのみになります。
ということはなるべく具体的に指導内容をカルテに書き残し、そしてそれを次回診察の時に見直すことによってはじめて、
指導がうまくいっているのか、軌道修正が必要なのかを検討し、患者にフィードバックをかけることが可能となります。
従来の対面診療とは全くといっていいほど違う診療を求められるのが、自由診療下におけるオンライン診療だと私は考えているところです。
たがしゅう